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研究所について

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美しい森をつくる技術〜森林美学から森林風致計画学へ〜

 明治の中期,日本に初めて体系的な林業の技術がドイツから導入された際に,少し毛色の変わった林業技術の学問が導入されました。その名を「森林美学」と言います。ドイツの貴族(ユンカー),ハインリッヒ・フォン・ザーリッシュによって著されたこの本は,森林の持つ本来の美しさを向上させながら手入れをすることで,余計な手間をかけずに林木が健全で収量も多く,鳥や動植物も多様な,人々の喜び溢れる場となる,と説き,そうした森づくりの方法を自分の所有林の施業方法で例示した,古の造林技術書です。

 この技術は当初,明治神宮林造営にも影響を与えたと言われています※。そしてその後,日本全国の観光名所や森林公園に少しずつ適用され,やがて大正7年には北海道大学の新島善直教授の手によって,原著のドイツ「森林美学」を基礎として,日本,とりわけ寒冷な北海道を対象とした日本版森林美学が刊行されました。これは当時のベストセラーだったと言われています。さらには,昭和の初めになると,「森林美学」という言葉は,「森林の風致的施業」として,国立公園の特別保護地域,特別地域を取り巻く周辺の森林保全への現実的な林業技術として紹介されました。こうして本国ドイツでも変わり種の学問は,日本的にカスタマイズされ,受容されていきました。ところが大変残念なことに,第二次世界大戦,その後の拡大造林期を経て,この技術は我が国から姿を消してしまいました。本国ドイツでも,それは同様でした。長い間森林は,木材を生産する場所としてのみ存在していたためこのような技術はあまり顧みられなくなりました。

※今泉宣子(2013): 明治神宮ー「伝統」を創った大プロジェクト:新潮社 , p351 

 研究所の設立趣旨と目標

森林美学

 この技術に転機が訪れたのは今世紀になってからでした。忘れ去られていた技術が,本国ドイツをはじめ,現在ザーリッシュのつくった森の現存するポーランド,そしてなんとアメリカでまで翻訳され,復刻され始めたのです。世界中で,森林の多機能性や多様さ,樹木の健全な発育が満たされた森林に対し,多くの人の生活空間に利用する期待が高まってきた結果なのかもしれません。

 弊社はザーリッシュの森づくりの考えに賛同し,さらに日本の中でこの技術の「考え方」を現実的にどう適応していくべきか,研究し,実行しながら,探求していくことを目的として設立されました。生活環境に近接した身近な森林が,安全に収穫し,散策などの利用も可能な,美しいヨーロッパの都市林のような機能を持った「日本の風致林」として,多くの地域を美しく彩る日が来ることを心から願い,研鑽していきたいと考えています。

 

研究所概要

研究所名 一般社団法人 森林風致計画研究所(英語表記 Institue of Forest Aesthetics & Planning)
住所 390−0861長野県松本市蟻ケ崎5−2−59
設立 平成27年7月27日
設立目的 自然的取り扱いを行う施業林の,美しさ,快適さの向上に資する調査、研究、森林施業の実行を目的とする。
特色 日本で唯一の森林美学、森林風致を専門に研究する民間研究機関である。
代表者 代表理事 伊藤精晤 信州大学名誉教授
研究員 副理事長(研究員) 清水裕子 農学博士 その他兼任研究員6人(うち農学博士3人)